「国産の高級時計で、長年愛用できる、語れる一本が欲しい。
しかし、スイス製に比べて技術的な優位性がいまひとつ分からない…」。そんな技術者ならではの知的好奇心と悩みに応えるため、本記事では国産時計におけるシリコン関連技術を徹底的に掘り下げ、あなたにとって最適な一本を見つけ出すお手伝いをします。
【はじめに結論】国産時計におけるシリコン技術は、ヒゲゼンマイに採用するのではなく、主に脱進機(がんぎ車など)に活用されているのが現状です。これは、衝撃に弱く修理が困難というシリコンの弱点を避けつつ、軽量で摩擦が少ないという利点を最大限に活かす、日本のメーカーならではの合理的な戦略と言えるでしょう。特にMEMS技術を駆使するグランドセイコーと、いち早くシリコン製がんぎ車を導入したオリエントスターが、この分野を牽引しています。
この記事で分かること
- 国産時計におけるシリコン技術の最新動向と各社の戦略
- 「シリコン製ヒゲゼンマイ」と「シリコン製脱進機」の明確な違い
- 技術者の視点で選ぶべき国産シリコン関連技術搭載モデル
- シリコン製部品のメリット、そして無視できないデメリット
- オーバーホールや長期的な耐久性に関する専門的な見解
国産時計のシリコン技術、その真実と各社の戦略に迫る

時計雑誌をめくるたびに目にする「シリコン」という言葉。
特に、自分が誇りを持つ国産の高級時計において、この新素材がどう活かされているのか、その全体像を掴むのはなかなか難しいものですよね。この章では、まず技術の基本に立ち返り、国産ブランドが採用するシリコン技術の真実と、その背景にある各社の深い思想に迫っていきましょう。
なぜ今、腕時計にシリコン製部品が注目されるのか?
現代社会は、スマートフォンやPC、バッグの留め具など、強力な磁気を発するものに囲まれています。ご存知の通り、機械式時計にとって磁気は大敵です。精度を司るヒゲゼンマイが磁気を帯びてしまうと、その繊細な動きは乱れ、正確な時を刻めなくなるという致命的な問題がありました。
この長年の課題を根本から解決する素材として脚光を浴びたのが、シリコン(ケイ素)です。シリコンは原理的に磁場の影響を全く受けず、温度変化にも極めて強い。さらに、軽量で硬く、半導体製造で培われたMEMS(メムス)のような微細加工技術を使えば、理想的な形状の部品を極めて高い精度で量産できるのです。
シリコン素材の主なメリット | 解説 |
---|---|
完璧な耐磁性 | 日常生活のあらゆる磁気から時計の精度を守る |
優れた温度安定性 | 気温の変化による部品の伸縮がほとんどなく、精度が安定 |
軽量性 | 部品が軽くなることで、動力の伝達効率が向上し、パワーリザーブが伸びる |
高い加工精度 | MEMS技術により、理論上最適な形状をミクロン単位で実現可能 |
このような特性から、シリコンは時計の精度と信頼性を飛躍的に向上させる「革命的素材」として、多くのブランドから熱い視線を注がれているのです。
時計の心臓部「ヒゲゼンマイ」と「脱進機」の役割と仕組み
「シリコン」という言葉を正しく理解するには、機械式時計の心臓部、「調速機」と「脱進機」の役割を知ることが不可欠です。
- 調速機(ヒゲゼンマイ+テンプ): 時計の「振り子」の役割を果たし、一定の周期で振動することで、正確な時間の“基準”を創り出します。渦巻き状の細いバネであるヒゲゼンマイが、その振動周期を決定づける、まさに最重要部品と言えるでしょう。
- 脱進機(がんぎ車+アンクル): 動力源である主ゼンマイの力を、調速機(テンプ)に少しずつ、かつ正確に伝え、同時にテンプの規則正しい振動を他の歯車に伝える「制御弁」のような役割を担います。
つまり、ヒゲゼンマイは「精度そのもの」を生み出し、脱進機は「その精度を維持しながら動力を伝える」役割を担っている。国産ブランドの多くは、この二つの部品に求められる特性は異なると考え、それぞれに最適な素材を使い分けるという、実に興味深い戦略を採っているのです。
国産とスイス製、シリコン技術に対する根本的な思想の違い
シリコン技術へのアプローチは、国産ブランドとスイスの主要ブランドとで、その思想に明確な違いが見て取れます。
オメガを筆頭とするスイス勢の多くは、シリコンの優れた特性を活かし、ヒゲゼンマイそのものに採用することで、耐磁性能をブランドの核として全面的に押し出しています。一方で、あのロレックスでさえ、一部モデルにシリコン製ヒゲゼンマイ「シロキシ」を導入しつつ、主力モデルには耐衝撃性と修理可能性を重視した独自合金「パラクロム」を使い分ける二元戦略を採っている点は示唆に富んでいます。
これに対し、グランドセイコーは、シリコンの「衝撃に対する脆さ」と「修理が不可能(交換のみ)」という点を重く見て、ヒゲゼンマイへの採用には慎重です。
その代わり、半導体製造で培ったMEMS技術を用いて、脱進機(がんぎ車やアンクル)にシリコンに匹敵する精密部品を採用。軽量で摩擦の少ない脱進機が、動力の伝達ロスを劇的に減らし、精度とパワーリザーブの向上に貢献するという、極めて合理的な選択をしています。(出典: セイコーミュージアム 銀座)
ブランド | シリコン活用戦略 | 目的・思想 |
---|---|---|
オメガ | ヒゲゼンマイに全面採用 | 高耐磁性をブランドアイデンティティの中核に据える |
ロレックス | モデルにより合金とシリコンを使い分け | 堅牢性と先進性の両方をカバーするポートフォリオ戦略 |
グランドセイコー | 脱進機にMEMS技術として採用 | 「部品ごとの材料最適化」を追求する技術者的なアプローチ |
オリエントスター | がんぎ車に採用 | コストを抑えつつ、動力効率を上げる戦略的な選択 |
このように、一口に「シリコン」と言っても、どの部品に、どのような思想で採用しているのかがブランドによって全く異なるのが、この技術の面白いところです。
開発者が語る国産シリコン部品、その開発の舞台裏
オリエントスターがシリコン製がんぎ車の開発に成功した背景には、親会社であるエプソンの存在が欠かせません。精密機器メーカーの技術者である方ならご存知の通り、エプソンはプリンターヘッドの開発でMEMS加工技術を磨き上げてきました。その技術を応用することで、国産時計メーカーとしてはいち早く、シリコン製がんぎ車の実用化に成功したのです。
開発当初の課題は、シリコンの「脆さ」でした。金属製の軸を圧入する際に割れてしまう問題を、がんぎ車の形状自体にバネ性を持たせるという独創的なアイデアで解決。これは特許も取得している素晴らしい技術です。さらに表面に酸化膜を重ねて強度を高め、ナノレベルの膜厚調整技術で美しいブルーに発色させる。
まさに、日本の「ものづくり」が得意とする、既存技術の応用と地道な試行錯誤によって課題を乗り越えた、技術者魂の結晶と言えるでしょう。(出典: エプソン公式サイト 開発秘話)
なぜ理想の国産ハイビートウォッチに辿り着けないのか?

海外の有名ブランドも確かに魅力的です。しかし、やはり日本の技術者としては、自国の「ものづくり」の魂が宿る、語れる一本を手にしたい。そう考えるのは、ごく自然なことだと思います。ところが、いざ探してみると情報が錯綜し、本当に価値ある一本がどれなのか、確信が持てずにいるのではないでしょうか。
断片的な情報ばかりで、真の技術的優位性が分からない
時計雑誌やウェブサイトを読んでも、「シリコン採用で高精度化!」といった言葉は躍りますが、それが具体的にどのようなメカニズムで、従来の技術に比べてどれほど優れているのか。エンジニアとして、そのロジックまで踏み込んで解説してくれる情報は、驚くほど少ないのが現状です。
スイス製との比較においても、どちらが優れているという単純な話ではなく、設計思想からくるアプローチの違いがあるはずです。その本質を理解しなければ、心から納得して、決して安くはない投資をすることはできません。
「シリコン製」という言葉が指す範囲の曖昧さに混乱する
先にも触れた通り、「シリコン製」という言葉が、時計のどの部品を指しているのかが非常に曖昧です。
- シリコン製ヒゲゼンマイのことなのか?
- それともシリコン製のがんぎ車なのか?
- あるいはアンクルなど、脱進機を構成する他の部品を指すのか?
これらを混同したまま情報を集めてしまうと、各モデルの本当の価値を見誤る原因となります。特に「国産のシリコン技術」に関心を持つ方ほど、この点で混乱に陥りやすい傾向があります。ご安心ください、本記事がその曖昧さを完全に解消し、クリアな視点を提供します。
結局どのモデルが自身の理想に最も近いのか判断できない
こうした情報の混乱は、最終的に「どのモデルを選べば良いのか」という、最も重要な問いに対する答えを遠ざけてしまいます。技術的な面白さ、ブランドの哲学、そして、これから何十年と付き合える信頼性。これらの要素を高いレベルで満たしてくれる、自分にとっての「理想の一本」は、一体どれなのでしょうか。
その答えを見つけるためには、表面的なスペックだけでなく、その裏側にある技術的な思想やストーリーまで深く理解する必要があります。
国産シリコン搭載腕時計を見極める3つの着眼点

では、数ある国産時計の中から、ご自身の価値観に合った、真に価値のある一本を見つけ出すためには、どこに注目すれば良いのでしょうか。ここでは、技術者の方にこそ押さえていただきたい、3つの着眼点を解説します。
着眼点1. シリコンはどの重要部品で採用されているか?
まず最も重要なのが、シリコン(またはMEMSなどの精密加工部品)がどの部品に使われているかを確認することです。これにより、その時計が何を重視して設計されたのか、その思想が色濃く見えてきます。
- がんぎ車・アンクル(脱進機)に採用:
- 目的: 動力伝達効率の向上、パワーリザーブの長時間化。
- 思想: シリコンの「軽量性」「低摩擦」というメリットを最大限に活かし、ヒゲゼンマイには「堅牢性」に優れた伝統的な合金を使う、リスクを避けた極めて合理的な選択と言えます。グランドセイコーやオリエントスターがこの戦略を採っています。
- ヒゲゼンマイに採用:
- 目的: 完全な耐磁性と温度安定性の実現。
- 思想: シリコンの最大のメリットである「非磁性」を最優先し、現代のデジタル社会における実用性を追求する戦略です。2024年現在、国産の主要ブランドで大々的に採用している例はまだ少ないものの、今後のトレンドとなる可能性は十分に考えられます。
着眼点2. 設計思想と長期的なメンテナンス体制を比較する
次に、その技術がブランド全体の設計思想の中で、どのような位置づけにあるのかを理解することが重要です。
例えば、グランドセイコーのCal.9SA5は、MEMSによる高効率な脱進機を搭載するだけでなく、理論上等時性に優れる「巻き上げヒゲ」や、独自の「フリースプラングテンプ」を組み合わせることで、ムーブメント全体の性能を極限まで高めようとしています。これは、一つの技術に頼るのではなく、総合力で頂点を目指すという、いかにも日本のものづくりらしい思想の表れではないでしょうか。
また、メンテナンス体制も重要な判断基準です。シリコン部品は修理ができず、交換が基本となります。そのため、メーカーの正規サービスセンターでの対応が必須となり、独立系の修理工房では対応できないケースがほとんど。ブランドのサービス体制や、将来的な部品供給の安定性も考慮に入れるべきでしょう。
着眼点3. 長期愛用を見据えたシリコン素材の耐久性と特性
最後に、素材そのものの特性を理解し、ご自身の使い方と照らし合わせる必要があります。シリコンの最大のメリットは耐磁性と耐食性ですが、一方で無視できないデメリットも存在します。
シリコン素材のデメリット:
- 衝撃への脆さ: 金属のような柔軟性がなく、陶器のように強い衝撃で割れたり欠けたりするリスクがある。
- 修理の不可能性: 破損した場合、部品一式(テンプごと)の交換となり、高額になる可能性がある。
- 長期実績の未知数: 市場に登場してまだ20年弱であり、50年、100年単位での耐久性はまだ実証段階にある。
日常使いでの落下など、強い衝撃を与える可能性がある方は、あえて脱進機のみに先進技術を採用し、心臓部のヒゲゼンマイには実績のある合金「スプロン」を採用するグランドセイコーの哲学に、より安心感を覚えるかもしれませんね。
【2025年最新】国産シリコン関連技術を搭載した傑作腕時計5選

これまでの分析を踏まえ、国産ブランドが誇るシリコン関連技術を搭載した、特におすすめできる5つのモデルを厳選しました。それぞれの時計が持つ技術的な魅力とストーリーを、ぜひ感じ取ってみてください。
グランドセイコー SLGH005「白樺」:日本の美意識と先端技術の融合
新世代のハイビートムーブメント「キャリバー9SA5」を搭載した、グランドセイコーを象徴する一本です。雄大な白樺林の力強い木肌を表現したダイヤルは、まさに日本の美意識の結晶と言えるでしょう。
心臓部には、半導体製造技術を応用したMEMS(メムス)によって製造された高効率な「デュアルインパルス脱進機」を搭載。エネルギー伝達のロスを極限まで減らし、毎時36,000振動のハイビートでありながら、約80時間という驚異的なパワーリザーブを実現しています。
- 最先端技術のキャリバー9SA5を搭載
- MEMS技術による高効率な脱進機が高い精度と持続時間を両立
- 日本の自然美を表現した芸術的なダイヤルデザイン
項目 | 内容 |
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料金 | 1,276,000円(税込) |
ムーブメント | メカニカル自動巻(手巻つき) キャリバー9SA5 |
先進技術 | デュアルインパルス脱進機(MEMS技術による高精度部品) |
パワーリザーブ | 約80時間 |
ケース素材 | ステンレススチール |
ケース直径 | 40.0mm |
公式サイト | 公式サイトで詳細を見る |
オリエントスター RK-AZ0102N:宇宙を腕に宿すフルスケルトン
国産時計としていち早くシリコン製がんぎ車を導入し、技術力の高さを示したオリエントスター。このモデルは、ペルセウス座流星群を構成する星団の名を冠した「M34」コレクションのスケルトンモデルです。
最大の特徴は、文字盤と裏蓋の両方から鑑賞できる、鮮やかなブルーのシリコン製がんぎ車。エプソンの独自技術が可能にしたこの部品は、軽量であるため動力効率が高く、70時間以上のロングパワーリザーブに貢献しています。日本の先進技術を、視覚的に最も楽しめる一本ではないでしょうか。
- エネルギー効率を高めるシリコン製がんぎ車を搭載
- 70時間以上のロングパワーリザーブを実現
- ムーブメントの精緻な動きを鑑賞できるフルスケルトン
項目 | 内容 |
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料金 | 363,000円(税込) |
ムーブメント | 機械式(手巻) キャリバーF8B61 |
シリコンパーツ | シリコン製がんぎ車 |
パワーリザーブ | 70時間以上 |
ケース素材 | ステンレススチール (SUS316L) |
ケース直径 | 39.0mm |
公式サイト | 公式サイトで詳細を見る |
グランドセイコー SLGC001:ブランド初の機械式クロノグラフ
グランドセイコーが満を持して発表した、ブランド初の機械式クロノグラフ「TENTAGRAPH」。その心臓部には、キャリバー9SA5をベースに開発された「キャリバー9SC5」が搭載されています。
もちろん、このムーブメントにもMEMS技術による高効率なデュアルインパルス脱進機が採用されており、10振動/秒というハイビートとクロノグラフ機構を両立させながら、約72時間のパワーリザーブを確保。ケース素材には軽量なブライトチタンを使用し、技術の粋を詰め込んだ究極のツールウォッチです。
- ブランドの歴史的マイルストーンとなる初の機械式クロノグラフ
- キャリバー9SA5をベースとした先進ムーブメント「9SC5」
- 軽量で堅牢なブライトチタンケースとセラミックベゼル
項目 | 内容 |
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料金 | 1,980,000円(税込) |
ムーブメント | メカニカル自動巻(手巻つき) キャリバー9SC5 |
先進技術 | デュアルインパルス脱進機(MEMS技術による高精度部品) |
パワーリザーブ | 約72時間 |
ケース素材 | ブライトチタン |
ケース直径 | 43.2mm |
公式サイト | 公式サイトで詳細を見る |
グランドセイコー SLGH017「ナイトバーチ」:ブライトチタン採用モデル
人気の「白樺」モデルに、新たな解釈を加えた一本。静寂な夜の白樺林をイメージした、精悍なブラックダイヤルが特徴です。基本的な性能はSLGH005と共通で、キャリバー9SA5による高い精度と約80時間の持続時間を誇ります。
このモデルの特筆すべき点は、ケースとブレスレットに、軽量で耐傷性に優れ、金属アレルギーを起こしにくいブライトチタンを採用している点。ステンレススチールモデルよりもさらに軽く、快適な装着感を実現しています。デザインだけでなく、素材へのこだわりも追及したい、そんな方に最適な選択肢です。
- 先進のキャリバー9SA5による卓越したパフォーマンス
- 軽量でアレルギーを起こしにくいブライトチタンを外装に採用
- 夜の白樺林から着想を得た、所有欲を満たす精悍なデザイン
項目 | 内容 |
---|---|
料金 | 1,463,000円(税込) |
ムーブメント | メカニカル自動巻(手巻つき) キャリバー9SA5 |
先進技術 | デュアルインパルス脱進機(MEMS技術による高精度部品) |
パワーリザーブ | 約80時間 |
ケース素材 | ブライトチタン |
ケース直径 | 40.0mm |
公式サイト | 公式サイトで詳細を見る |
オリエントスター RK-AZ0101N:彗星をモチーフにした精緻なデザイン
先に紹介したRK-AZ0102Nと同じく、シリコン製がんぎ車を搭載した「M34」コレクションのモデルです。こちらは落ち着いたグレーのダイヤルが特徴で、よりシックな印象を与えますね。
最新の自社製手巻きムーブメント「キャリバーF8B61」の精緻な動きと、その中心で青く輝くシリコン製がんぎ車を鑑賞できるスケルトン構造は健在。宇宙をテーマにしたロマンチックなデザインと、日本の先進技術を手頃な価格で両立させた、非常にコストパフォーマンスの高い一本と言えるでしょう。
- 最新ムーブメントF8B61にシリコン製がんぎ車を搭載
- 宇宙や彗星をテーマにしたストーリー性のあるデザイン
- 70時間以上のロングパワーリザーブ
項目 | 内容 |
---|---|
料金 | 363,000円(税込) |
ムーブメント | 機械式(手巻) キャリバーF8B61 |
シリコンパーツ | シリコン製がんぎ車 |
パワーリザーブ | 70時間以上 |
ケース素材 | ステンレススチール (SUS316L) |
ケース直径 | 39.0mm |
公式サイト | 公式サイトで詳細を見る |
シリコン製ヒゲゼンマイに関するよくある質問

ここでは、シリコン製部品に関して、多くの方が抱くであろう疑問について、専門的な見地からお答えします。
Q1. シリコン製部品のメリットと致命的なデメリットとは?
A1. メリットは、これまで述べてきた通り「完璧な耐磁性」「温度安定性」「軽量性」にあります。これにより、時計はより正確に、より長く動き続けることができます。一方で、致命的なデメリットは「衝撃への脆さ」と「修理の不可能性」です。金属のようにしなやかに変形して衝撃を吸収するのではなく、強い衝撃で陶器のように割れてしまう可能性があります。そして、破損した場合は部品一式の交換が必須となり、高額な修理費がかかることがあるのです。
Q2. オーバーホール費用や長期的な耐久性に違いはありますか?
A2. オーバーホールの基本料金が大きく変わることはありません。しかし、万が一シリコン部品が破損していた場合は、部品交換代が加算されるため、総額は高くなる可能性があります。耐久性については、金属疲労や錆とは無縁なため、素材自体の経年劣化は少ないとされています。ところが、前述の通り「突然の衝撃による破損」というリスクは常に存在します。この技術はまだ歴史が浅く、数十年単位での長期的な耐久性は、現在進行形で実績を積み重ねている段階と言えるでしょう。
Q3. なぜセイコーはヒゲゼンマイにシリコンを採用しないのですか?
A3. それは、セイコー(グランドセイコー)が「部品ごとの材料最適化」という、極めて合理的な技術者思想を貫いているからです。時計の精度を司る最も重要な部品であるヒゲゼンマイには、衝撃に強く、万が一の際に熟練の職人が「修理」できるという、長期間の信頼性を最優先し、実績のある独自合金「スプロン」を選択しています。その一方で、動力の伝達効率が重要な脱進機には、軽量で摩擦の少ないMEMS製の精密部品を採用する、という巧みな使い分けを行っているのです。
Q4. 2025年の特許切れで腕時計市場はどう変わる?
A4. シリコン製ヒゲゼンマイに関する中核的な特許が2025年以降に順次切れることで、技術の「民主化」が進むと予想されます。これまで特許の制約で採用を見送っていたメーカー(特にシチズンのような技術力のある企業)が、自社製ムーブメントにシリコンヒゲゼンマイを搭載し始める可能性が十分にあります。これにより、中価格帯の時計でも高い耐磁性能を持つモデルが一般化し、市場全体の技術レベルが底上げされるかもしれません。
総括:あなたに最適な一本は、技術への深い理解から見つかる

今回は、国産時計におけるシリコン技術の真実と、その思想が反映された傑作モデルをご紹介しました。
「シリコン製」という、たった一言の裏には、各ブランドの深い哲学と、未来を見据えた戦略が隠されています。ヒゲゼンマイに採用するのか、それとも脱進機に活かすのか。その一つの違いが、ブランドの信頼性やメンテナンスに対する考え方、そして「ものづくり」への姿勢そのものを映し出しているのです。
本記事で解説した「3つの着眼点」を羅針盤として、改めて各モデルのスペックやストーリーをじっくりと見つめ直せば、きっとあなたの知的好奇心を満たし、長く愛せる「語れる一本」が見つかるはずです。
ぜひ、公式サイトで各ブランドの技術に込められた思想を深く探求し、そして店頭で、日本の「ものづくり」の結晶をその手に取って感じてみてください。